2006年 07月 19日
タフでなければ生きていけない -自動販売機ー
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ブラジルでオレが気に入っているモノの一つに「自動販売機」がある。
ブラジルでは自動販売機は全く一般的ではない。
貧しい国はどこでもそうだが自動販売機など戸外においておくと
あっという間に壊されお金や商品を盗まれるから
普及しないのだ。欧州でもバーとか空港とかでタバコなど売っている程度
でほとんど見かけない。
さてこのブラジルにごくわずかしかない自動販売機はガソリンスタンドとか
ショッピングセンターの中とか、ホテルのロビーなどやはり人の目がいつも
届いているところに置いてある。裏の路上などには間違ってもおいてありはしない。
さて99年の乾季に、The Amazon Touchが中心になって日加欧伯の混成チームで
アマゾン探検ツアーを企画した。
南米で最も美しい熱帯魚 ”ディスカス” の古くからの謎を解くための探検ツアーだった。
ドイツ3人オーストリア1人ルクセンブルグ1人カナダ1人日本2人そしてブラジル
を代表してThe Amazon Touchからオレともう1名参加した。
オレが隊長をやった。
この探検ツアーはその後欧州のいくつかの雑誌に紹介され
熱帯魚ファンの間で有名になったのだが今回はこのツアーの
話ではない。
オレはメンバーが欧州や日本からうやってくるのを待つため一足先に
マナウスに乗り込んだ。Mというまぁ安いホテルに投宿していた。
探検にカネがかかるのでホテルなど安いところを予約していた。
オレはチェックインのときホテルのロビーに自動販売機がおいてあるのに
気が付いた。クソ暑いのにコーヒーの自動販売機だ。
ぼろいホテルなのに珍しいなーと思ったのだ。
この自動販売機には近づかないほうがいいという神の啓示のようなものを
オレはいつもと同じように一瞬感じたのだった。
さて翌日欧州のチームがホテルに入った。チェックインはマナウス流ノロノロで
部屋割りをきめたりとか、なんだかんだでとにかく時間がかかる。
一応チェックインが終わったメンバーは所在投げにロビーで全員が
終わるのを待っている。
そのときメンバーの1人が自動販売機に近づいていった。オレはその様子を
柱にもたれかかりながら見ていた。
そのルクセンブルグのオトコは自動販売機をためつすがめつ眺めていたが
意を決したように財布から両替したばかりの1ヘアル札を取り出した。
そしてオモムロに自動販売機のお札の”飲み口”にこの1へアル札を突っ込んだ。
オレはそれをなんとなく眺めていたが、お札を飲み込んだ直後、オッと
おもって思わず目を見開いた。
何が起きたかというと、説明が難しいが
何も起きなかったーのだ。
自動販売機はお金を飲み込んだあと”ノルウェイの森”のごとくシーンとしている。
お墓のようにダマッている、その存在感がオレには圧倒的に見えた。
ルクセンブルグのオトコはしばらくボケッとマヌケな面で立っていたが
なにも起こらないし、なにも出てこないので、レバーをいじったり、つり銭
がでてないかチェックしたりしていた。そのうち顔が赤くなってきた。
ついに叩いたり、ゆすったりし始めた。モチロン自動販売機は黙ったままだ。
コーヒーどころか水一滴出てこない。
やがて彼はすがるような顔をしてオレを見た。
オレはこのあと、どのようにコトが進むか知っている。
機械にモチロン故障の際の連絡先など書いていない。
ホテルのフロントに苦情を申し入れてもどうにもならない。
オレは担当ではないと言われてソッポを向かれるだけだ。
マネージャーを呼べといったら、今休暇中!これが相場。
しかし隊員のすがるような視線にオレは心を動かされ
一応ホテルに苦情を入れてやった。
モチロン何も起こらない。筋書き通りだ。
やがて彼は肩をすくめたシグサでオレを見た。やっとあきらめたようだ。
「そうだ、それでいい、ブラジルではアキラメが肝心だ。先に払ったお前がわるいー」
とオレはココロのなかでつぶやいていた。
ブラジルでは自動販売機相手でも絶対に先払いをしてはいけない。
この国では一度払った金は政府でも会社でも親でも子供でも犬でも猫でもアリンコでも
まず戻ってこない。
ツマリ分かりやすく言えば、宿命的に”先払い”を強制される自動販売機は相手にしてはいけないのだ。ただ自動販売機相手にルーレットを楽しむつもりだったらこれはガンガン金を飲み口に突っ込めばいい。
奇妙なことにオレはこのルクセンブルグのオトコに全く同情をしていなかった。
何故だかわからないがこの自動販売機が大好きになっていたのだ。
「ここはブラジルだ。ヨーロッパではないぜ! なぁ相棒 マヌケなヤローだったなぁ」
とこの機械に話しかけたいくらいだった。
そのすぐあとに、オレは同じような光景に出くわした。それはサンパウロのパウリスタ大通り
の下を走っている地下鉄の構内だ。
学生がやはりコーラかなに飲むのために機械にコインをいれたのだ。
今度はオレはじっくり見ていた。それも至近距離からだ。
その機械もオレの期待を裏切らなかった。
当然のようにその機械は学生が入れたコインをペクリと飲みこんだ。
そして冬のシベリアのタイガのようにシーンとしてその後は一切音を立てない。ゼロ。
学生はあせり始めて青くなったり赤くなったりしている。やがて蹴ったり叩いたりしはじめたが
モチロン何も起こらない。南極の氷山のほうがまだ愛想がいいのではないかというくらい
反応がない。
そのうち地下鉄がゴーゴー入ってきて学生は用があるのだろう、”クソッ、クソー”
とかなんとか悪態をつきながら地下鉄に乗っていってしまった。
オレはブラジルの自動販売機はスッゲーと思った。学生が行ったあとこの機械を
シゲシゲと見たが、モチロン連絡先や責任者の名前などどこにも書いていない。
ものすごい貫禄で押し黙っている。
おれは一種の感動を覚えた。この厚顔無恥!この意表をつく作戦!どうにもならない現実!
スッゲェー ブラジルそのものではないか!
もしかしたら商品など入っていないのかもしれない。
最初からカラでお金だけを無限に飲み込むだけかもしれないのだ。
冗談とも思えないところがブラジルのスゴイいところだ。
場所もよく考えて選んであるのかもしれない。
大体多くてもセイゼイ2ヘアルで100円くらい。設置されている場所もホテルと地下鉄構内
とかで忙しいところ。はめられたヤローも急いでいるし100円くらいならしょうがない
とアキラメも付く。セイゼイ30分くらい気分が悪いだけだ。
これは儲かる、そしてカネはペロリと飲み続けるが
コストはほとんどゼロだ。なにしろ商品がいらないのだからー。
オレのところには日本や欧州から知り合いや客とか色々くるのだが、自動販売機に
ついてはわざわざ注意する気もない。オレは自動販売機の味方なのだ。
何か飲みたければ勝手にカネを突っ込めばイイ。
そしてひと悶着のあと、オレは機械とは密かな会話を交わす。
「ここはブラジルだ、日本ではないぜ。なぁ相棒、ドジなやつだったなぁ」
ーーブラジルでは自動販売機に先払いをしてはいけないーーー
ブラジルでは自動販売機は全く一般的ではない。
貧しい国はどこでもそうだが自動販売機など戸外においておくと
あっという間に壊されお金や商品を盗まれるから
普及しないのだ。欧州でもバーとか空港とかでタバコなど売っている程度
でほとんど見かけない。
さてこのブラジルにごくわずかしかない自動販売機はガソリンスタンドとか
ショッピングセンターの中とか、ホテルのロビーなどやはり人の目がいつも
届いているところに置いてある。裏の路上などには間違ってもおいてありはしない。
さて99年の乾季に、The Amazon Touchが中心になって日加欧伯の混成チームで
アマゾン探検ツアーを企画した。
南米で最も美しい熱帯魚 ”ディスカス” の古くからの謎を解くための探検ツアーだった。
ドイツ3人オーストリア1人ルクセンブルグ1人カナダ1人日本2人そしてブラジル
を代表してThe Amazon Touchからオレともう1名参加した。
オレが隊長をやった。
この探検ツアーはその後欧州のいくつかの雑誌に紹介され
熱帯魚ファンの間で有名になったのだが今回はこのツアーの
話ではない。
オレはメンバーが欧州や日本からうやってくるのを待つため一足先に
マナウスに乗り込んだ。Mというまぁ安いホテルに投宿していた。
探検にカネがかかるのでホテルなど安いところを予約していた。
オレはチェックインのときホテルのロビーに自動販売機がおいてあるのに
気が付いた。クソ暑いのにコーヒーの自動販売機だ。
ぼろいホテルなのに珍しいなーと思ったのだ。
この自動販売機には近づかないほうがいいという神の啓示のようなものを
オレはいつもと同じように一瞬感じたのだった。
さて翌日欧州のチームがホテルに入った。チェックインはマナウス流ノロノロで
部屋割りをきめたりとか、なんだかんだでとにかく時間がかかる。
一応チェックインが終わったメンバーは所在投げにロビーで全員が
終わるのを待っている。
そのときメンバーの1人が自動販売機に近づいていった。オレはその様子を
柱にもたれかかりながら見ていた。
そのルクセンブルグのオトコは自動販売機をためつすがめつ眺めていたが
意を決したように財布から両替したばかりの1ヘアル札を取り出した。
そしてオモムロに自動販売機のお札の”飲み口”にこの1へアル札を突っ込んだ。
オレはそれをなんとなく眺めていたが、お札を飲み込んだ直後、オッと
おもって思わず目を見開いた。
何が起きたかというと、説明が難しいが
何も起きなかったーのだ。
自動販売機はお金を飲み込んだあと”ノルウェイの森”のごとくシーンとしている。
お墓のようにダマッている、その存在感がオレには圧倒的に見えた。
ルクセンブルグのオトコはしばらくボケッとマヌケな面で立っていたが
なにも起こらないし、なにも出てこないので、レバーをいじったり、つり銭
がでてないかチェックしたりしていた。そのうち顔が赤くなってきた。
ついに叩いたり、ゆすったりし始めた。モチロン自動販売機は黙ったままだ。
コーヒーどころか水一滴出てこない。
やがて彼はすがるような顔をしてオレを見た。
オレはこのあと、どのようにコトが進むか知っている。
機械にモチロン故障の際の連絡先など書いていない。
ホテルのフロントに苦情を申し入れてもどうにもならない。
オレは担当ではないと言われてソッポを向かれるだけだ。
マネージャーを呼べといったら、今休暇中!これが相場。
しかし隊員のすがるような視線にオレは心を動かされ
一応ホテルに苦情を入れてやった。
モチロン何も起こらない。筋書き通りだ。
やがて彼は肩をすくめたシグサでオレを見た。やっとあきらめたようだ。
「そうだ、それでいい、ブラジルではアキラメが肝心だ。先に払ったお前がわるいー」
とオレはココロのなかでつぶやいていた。
ブラジルでは自動販売機相手でも絶対に先払いをしてはいけない。
この国では一度払った金は政府でも会社でも親でも子供でも犬でも猫でもアリンコでも
まず戻ってこない。
ツマリ分かりやすく言えば、宿命的に”先払い”を強制される自動販売機は相手にしてはいけないのだ。ただ自動販売機相手にルーレットを楽しむつもりだったらこれはガンガン金を飲み口に突っ込めばいい。
奇妙なことにオレはこのルクセンブルグのオトコに全く同情をしていなかった。
何故だかわからないがこの自動販売機が大好きになっていたのだ。
「ここはブラジルだ。ヨーロッパではないぜ! なぁ相棒 マヌケなヤローだったなぁ」
とこの機械に話しかけたいくらいだった。
そのすぐあとに、オレは同じような光景に出くわした。それはサンパウロのパウリスタ大通り
の下を走っている地下鉄の構内だ。
学生がやはりコーラかなに飲むのために機械にコインをいれたのだ。
今度はオレはじっくり見ていた。それも至近距離からだ。
その機械もオレの期待を裏切らなかった。
当然のようにその機械は学生が入れたコインをペクリと飲みこんだ。
そして冬のシベリアのタイガのようにシーンとしてその後は一切音を立てない。ゼロ。
学生はあせり始めて青くなったり赤くなったりしている。やがて蹴ったり叩いたりしはじめたが
モチロン何も起こらない。南極の氷山のほうがまだ愛想がいいのではないかというくらい
反応がない。
そのうち地下鉄がゴーゴー入ってきて学生は用があるのだろう、”クソッ、クソー”
とかなんとか悪態をつきながら地下鉄に乗っていってしまった。
オレはブラジルの自動販売機はスッゲーと思った。学生が行ったあとこの機械を
シゲシゲと見たが、モチロン連絡先や責任者の名前などどこにも書いていない。
ものすごい貫禄で押し黙っている。
おれは一種の感動を覚えた。この厚顔無恥!この意表をつく作戦!どうにもならない現実!
スッゲェー ブラジルそのものではないか!
もしかしたら商品など入っていないのかもしれない。
最初からカラでお金だけを無限に飲み込むだけかもしれないのだ。
冗談とも思えないところがブラジルのスゴイいところだ。
場所もよく考えて選んであるのかもしれない。
大体多くてもセイゼイ2ヘアルで100円くらい。設置されている場所もホテルと地下鉄構内
とかで忙しいところ。はめられたヤローも急いでいるし100円くらいならしょうがない
とアキラメも付く。セイゼイ30分くらい気分が悪いだけだ。
これは儲かる、そしてカネはペロリと飲み続けるが
コストはほとんどゼロだ。なにしろ商品がいらないのだからー。
オレのところには日本や欧州から知り合いや客とか色々くるのだが、自動販売機に
ついてはわざわざ注意する気もない。オレは自動販売機の味方なのだ。
何か飲みたければ勝手にカネを突っ込めばイイ。
そしてひと悶着のあと、オレは機械とは密かな会話を交わす。
「ここはブラジルだ、日本ではないぜ。なぁ相棒、ドジなやつだったなぁ」
ーーブラジルでは自動販売機に先払いをしてはいけないーーー
by theamazontouch
| 2006-07-19 05:24